自転車操業一筋42年

世の中の「意識高い系」トライアスリートについていけない泳ぎがヘタで意志が弱いサラリーマン、永遠の42歳後厄、が初フルマラソン完走後3年でアイアンマン70.3のフィニッシャーに。フルマラソンサブ4達成後の次の目標はOD3時間切りです。

トライアスロンは安心・安全なスポーツじゃない

村上春樹氏の「走ることについて語るときに僕の語ること 」において、彼がスイムの失敗で4年間トライアスロンから遠ざかっていたことについて触れている。

いうまでもないが、彼は相当なアスリートであり、直近の「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 」を読んでも想像できる通り、彼は相当なスイマーでもある。海でもプールでも1500mを33分ぐらいで普通に泳げる、とのことなので、オリンピックディスタンスに出るには全く問題のないスイマーだ。そして生まれ育ったのが海の近くなので、オープンウォータースイムにも慣れているし海の方が泳ぎやすいぐらいだ、とも書かれている。

 

そんな彼だが、トライアスロンのレースでは何故か上手く泳げなったことがあった。ハワイのレースでの体験をそのまま引こう。

「海に入って、さあ泳ぎだそうとすると、とたんに呼吸ができなくなってしまった。いつもどおり顔をあげて呼吸をしようとしても、なぜかタイミングがあわない。呼吸が思うようにいかないと、恐怖が身体を支配して、筋肉がこわばってしまう。胸がわけもなくどきどきして、手足がいうことを聞いてくれない。顔が水につけられない。いわゆるパニックである。」

2000年の村上トライアスロンでも同様の症状が起きてしまい、彼は4年間トライアスロンから離れることになる。ただ離れるだけではなくて、4年間その「失敗」が胸にとげのように刺さったままで。

実は村上トライアスロンを棄権した後、彼はスイム会場で再び泳いでいる。その時は全く何の問題もなく泳げたのだ。何が言いたいかというと、それだけオープンウォータースイムというのはメンタルなものなのだ。

だから、どんなに泳ぎに自信がある人でも、事故は起こりえる。また、自信や経験がない人は、そもそも不安を抱えてのスタートなだけに、よりパニックに陥りやすい危険がある。

私も初めてのトライアスロン挑戦前日の会場での試泳が実質初めてのオープンウォータースイムで、まさにパニックに陥りかけた。そして本番では、私とほぼ同い年の石垣島トライアスロン3度目の挑戦の方がスイムで亡くなられた。

 

「トライアスロンは体に優しい」という本が出ていたり、(私は見てはいないが)テレビの企画でお笑い芸人が罰ゲームの一つとしてトライアスロンに挑戦したりしていて、それらを見て「もしかしてトライアスロンってシャレで出ても何とかなるかも」と思ってしまう人たちがいるかも知れない。

マラソンブームの後は必ずトライアスロンブームがやってくる。それを見越して競技人口を増やして金儲けしようと考えている人たちもいるかも知れない。バイクもウェットスーツも高い買い物だし、多くの金が動きそうだ。そんな人たちがもし軽率に「トライアスロンは簡単だ!」などというのであれば、それはあまり信用すべきではないように思われる。