自転車操業一筋42年

世の中の「意識高い系」トライアスリートについていけない泳ぎがヘタで意志が弱いサラリーマン、永遠の42歳後厄、が初フルマラソン完走後3年でアイアンマン70.3のフィニッシャーに。フルマラソンサブ4達成後の次の目標はOD3時間切りです。

健康なトライアスリートが溺れる理由その1 錐体内出血

泳げない人が溺れるのは分からなくはないが、カラダを鍛えていていつもスイムのトレーニングを欠かさないようなトライアスリートでも水の事故に巻き込まれる。なぜなのだろうか。

直感的には普通の人たちと比べて泳ぎも上手そうで、体力もありそうなので事故率は低そうなのだが。子供やお年寄りが海やお風呂で亡くなったりする事故とは原因が違うように思われた。

ちなみに、英国での調査ではオープンウォーターでの溺死の42%があと2m、55%があと3m行けば助かったところで起きていたそうだ。素朴な疑問として、何でこんな事が起きるのだろうか不思議に思ったので少し調べてみた。

まず一つ目の原因が、錐体内出血。聞き慣れない言葉だ。

錐体内出血のメカニズムを簡単にまとめると以下の通り。

何らかの理由で鼻から水を吸い込み、その水がエウスタキオ管(耳管、ダイビングや飛行機などで悪さする耳と中耳の間の管)に入ってしまって管をふさぎ、その栓があごの筋肉の動きや外耳からの水圧で中耳の空洞部分の圧力に異常を引き起こす。

その結果中耳や内耳を取り囲んでいる錐体で内出血が起こり、その中心にある三半規管の機能が低下して自分が立っているのか宙吊りになっているのか分からないぐらい平衡感覚が失われる(=めまい)。

トライアスロン中、選手が突然あらぬ方向に泳ぎ始めて溺水する事例が実際にあったが、錐体内出血による平衡感覚の消失で説明される。

トライアスロンでは、どんなに泳ぎの上手い人でもスタート直後などのバトルによって意図せず殴られて鼻から水を飲んだり、あるいは波のせいで息継ぎをしくじって鼻から水が入ったりすることが有り得る。鍛えているかどうかには関係なく、おそらく運の問題だろう。

錐体内出血が怖いのは、平衡感覚を失うがゆえに意識があっても脚のつく浅瀬ですら溺れる可能性があるということだ。

錐体内出血への対策は以下の通り。

鼻から水を吸い込んで具合が悪くなったら、すぐに競技を中止してできるだけ速く水から離れる。前述したとおり浅瀬でも危険なので。ただし水を吸い込んでから錐体内出血して気分が悪くなるまで少し時間的余裕があるはずなので、水を吸い込んだ後の自分の体調変化には最善の注意を払う。

風邪や耳鼻咽頭系の病気にかかっているときは特にリスクが高いことに留意(移動の際の飛行機での気圧の変化に対応できなかった際など)。

また私は酒の量が過ぎると鼻が詰まって眠れなくなるときがあるが、飲酒によって耳管の機能低下や誤飲がおきやすくなるため飲酒は特に危険。(石垣島トライアスロンでも飲酒の危険についてはメディカルスタッフからかなり強く警告があったが、メカニズムまでは踏み込んでいなかった。以前書いたが、人は「こういう理由でこうだからこうしてください」と理由についてきちんと説明されないとなかなか行動に移さない)

ある監察医は健康な人の溺水の半分程度は錐体内出血を起こして平衡感覚を失ったせい、と主張している。

しかし同じ人が昭和41年に起きた羽田沖全日空機墜落事故の乗員・乗客の死因を分析して、「検死の結果錐体内出血を起こしていたことが分かったので死因は着水時の溺死だと思われる」と語っている文章があった。

じゃあトライアスロンで溺死した人が錐体内出血を起こしていた場合、錐体内出血は溺水の原因なのか、結果なのか。どっちやねん。

いずれにせよ、体を鍛えているかどうかには関係なく、鼻から水を飲んだ場合は細心の注意が必要である、というのが調べて分かった。

参考:

宮古島トライアスロンの事故事例

 

上野正彦著 解剖学はおもしろい(Amazon)