健康なトライアスリートが溺れる理由その3 浸漬症候群
健康なトライアスリートがスイムで命を落とす原因その3。
浸漬症候群(しんせきしょうこうぐん)。聞いたこともない人が多いのではなかろうか。私も当然知らなかった。
動物は、カラダが冷水に浸かると呼吸を止め、脈を遅くし、末梢の血管を収縮させる「潜水反射」と呼ばれる反射が起きる。これは、冷水に浸かったときに重要な臓器に血流を集中させ、酸素を節約してより生き延びるチャンスが増えるよう、体内にプログラミングされている反応なのだ。
しかし、トライアスロンでカラダ、特に顔や頭が冷水に浸かったときに、迷走神経が刺激されて意図せず「潜水反射」が起き、心臓の動きが抑制されて心停止が起きたり、致命的な不整脈が起きたりすることがある。これが「浸漬症候群」で、水泳中に起きれば当然に溺水する危険がある。
対策としては、レース前に冷たい水を飲んだり、冷水を顔や頭に掛けておくことで体を慣らす、というやり方がある。多分かき氷食べ過ぎると頭痛くなるのも、浸漬症候群の親戚みたいなものだろう。
錐体内出血、過呼吸、浸漬症候群と書いてきたが、どれもメカニズムが分かれば対策が取れそうな気がする。だから無闇にオープンウォータースイミングを恐れることはない(もちろん油断しろといっているわけでもない)。これらの溺水の原因と対策については、トライアスロンの競技説明などに必ず明記してもいいのではないか。
ただ単に「前日に飲酒は止めましょう」とか「風邪気味だったらリタイアしましょう」というだけではなく、「なぜそうすべきなのか、どのようなリスクがあるのか」を明示することによって勇気を持ってリタイアできるよう、背中を押してあげるべきではなかろうか。